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他人の恋愛事情に首を突っ込むな

「──という訳で、万屋の旦那には協力してもらいたいのです!!」

名前が机を両手で叩いて銀時に訴えかけた。
場所はファミレス、テーブル席に向かい合って座る2人の前には2人前のパフェ。生クリームをスプーンですくいあげた銀時が普段通りの死んだ魚のような目のまま話始める。

「という訳でって何?その文章の前何も言ってねーだろ。あれか?選択反転で隠れた文章が読めるのか?どうせ隠しページとかもそれで探すんだろ?」
「その話古いので今の子には伝わらないと思いますよ。……じゃなくて!私の恋のお話ですよ!_」

本日2回目の名前の机バン!が炸裂する。銀時はうるせぇなぁと片耳を指で塞いだまま、もう片方の手でパフェを突く。

「なんの為にパフェを奢ってると思っているんですか!?」
「あー、思い出した思い出した。恋愛相談に乗るとかそんな感じの話だろ?それなら俺じゃない奴に聞け」
「とか言いつつしっかりパフェだけ食べようとするのやめてもらえませんか?……それは依頼料ですよ」

銀時はだるそうに名前の話を右から左へと受け流し、パフェが運ばれてくるとそれに夢中で、最初から何一つ話を聞いていなかった。

「わかったわかった。んで、田中くんのハートを射止める方法だろ?まず相手の事をよく知る事から始めろ。相手がいくつでどこに勤めているのか、自分と釣り合うのかをよく見極めろ。恋愛はハングリー精神だ」
「田中くんって誰ですか。旦那、何一つ私の話聞いてなかったですよね!?」

はぁー!と盛大にため息をついた名前は机の上に溶けた。が、すぐにも起き上がった。

「相手の情報……それなら大丈夫です。よぉ〜く知っていますから」
「つーか、真選組って恋愛禁止なんじゃねーの?」
「なんですかそれ。どこのアイドルグループですか!!」

名前には目もくれずパフェをいただく銀時。本題に進まずツッコミに忙しくなってしまった名前の目を盗んで、銀時は名前の分のパフェも頬張り始めた。
今は私服を着ている名前だが、普段は真選組の一員として巡回や警備の仕事に忙しい。

「それによぉ、社内恋愛はやめた方がいいぞ」
「誰がいつ社内恋愛って言いました?流石に真選組の皆さんはちょっと……ね」

ストーカーにマヨラー、ドSにミントン。自分の上司と同期らの事を思い返して嫌そうに名前が言った。

「んじゃ誰よ。俺ァてっきり、むさっ苦しい真選組の奴だと思って話進めてたんだがな」
「いや真選組主要メンバーに田中なんていねーだろ」

ついに敬語を使わなくなったイライラMAXの名前。ついでに自分のパフェがなくなっている事に気付き、呆れて何も言えなくなってしまう。しかしなんとしてもこの男にパフェ×2つ分の仕事をして貰わなければ割に合わない。

「とりあえずその気になってる相手のとこでも行ってみるか?」
「えっ、協力してくれるんですね!」
「まぁな」

カッコつけた銀時だが、スッと静かに伝票を名前の方へ追いやる。

「じ、実はその人とこれから会う約束をしてまして……」
「やるじゃねーか。よし、じゃあ銀さんが遠くから見守っててやるからとりあえず行ってこい!」
「はい!がんばります!!!」

名前と銀時は待ち合わせ場所へ向かった。なんの変哲もない普通の公園のベンチに名前が座り、その後ろの茂みに銀時がスタンバイする。
腕時計を確認する名前。約束の時間はもうすぐなのだろう、何度も手鏡でメイクや髪型をチェックしている。

「(しっかしどんな奴なんだ?男ができたなんて聞いたらゴリラの奴卒倒するぞ)」

真選組局長のゴリラこと近藤は、名前が幼い頃から面倒を見てきた名前の親のような存在だった。銀時は全国の娘を持つ父親が辛いと感じるときランキング第一位「娘が男を連れてきた」(銀時調べ)に近藤が耐えられるのかどうかを想像した。
名前に協力するとは言ったものの、正直銀時の中で不安要素しかなかった。先程も思い浮かべたが、名前の職場である真選組はストーカー・マヨラー・ドSと言った奇想天外おもしろコンテンツの集合体だ。そこで名前が慣れ切ってしまい、変な男に引っかかってしまっていたら自分はどうするべきか。もちろん全力で止めるしかあるまい。違う意味で緊張した銀時が息を飲んだ。

「(……!来た!!)」

ベンチに座っている名前が小さく声を上げた。立ち上がり、お相手を見つけたのか手を振り出す。銀時は必死に茂みの隙間から覗き見た。
真っ黒な長髪。片目には眼帯。服は青統一の着物。アンバランスな見た目は嫌でも目立ってしまう。

名前殿、待たせてすまない」
「いいえ、私も今きたところです!キャプテンカツーラ様」
「てめぇかァァァ!!!」

メキョと銀時の膝蹴りが桂の顔面にヒットする。その衝撃で桂は数メートル先に吹っ飛ばされる。

「だ、旦那!もしかしてお知り合いですか!?」
「知らねーよあんな奴。いいか、よく聞け。あんな明かにヤバそうな男なんて忘れろ!!」
「そ、そんなぁ!カツーラ様と私、釣り合わないと言うことですか!?」
「いやそーじゃねーよ!なんつーか、ホラ、水と油?なんかちげえけど、とりあえずダメなもんはダメ!」
「それでは納得がいきません!」

なんとかして桂と名前を引き剥がそうとするが、うまく言葉が出ない銀時。
そもそも真選組と攘夷志士である2人が結び合うなんて無理な話で、それを知っても知らずとも2人で会っている事がバレれば名前には相当重い罰が待っているだろう。今この段階で2人を引き剥がせれば、まだなんとかなるかも知れない。

「イテテ。おや、銀時ではないか!貴様、名前殿と知り合いであったかイダダダ!」

起き上がった桂の長い髪を引っ張り銀時が木陰で桂と相談し始める。名前は不思議そうにその様子を見ているが、特に深追いはしなかった。

「……おめーは名前がどんな奴か知ってんのか!?」
「無論。真選組監察見習い兼給仕係。身長は161センチ、体重は……」
「なんでそこまで知ってんだよ気持ち悪ィな!!」
「ちなみに好きな言葉は“天上天下唯我独尊”だそうだ」

突っ込む気力が失せた銀時がガックリと肩を落とす。

「……名前の年齢は?」
「ふっ、15であろう。名前検定10級の問題だな。簡単すぎる」
「いや問題なのはオメーの方だよ!15歳に手ェ出して、それに相手は真選組の人間って……。どう責任取るんだよ!!」
「まぁ落ち着け銀時。責任は取るつもりだ。……幸いな事に向こうは攘夷浪士の桂小太郎だと気付いておらん」
「何一つ幸いな事がねーよ。気付いてないなら今がチャンスだろ。お前からちゃんと振ってやらねーと、あいつの親代わりストーカーゴリラだぞ?ストーカー化しちまったらどうする」
「案ずるな。手は打ってある」

フッと鼻で笑う桂が懐から黒い箱を取り出した。銀時にはそれが何か全く検討も付かなかったが、桂が名前の元へ向かって行くのを見守ってしまった。

「すまない名前殿。少し取り込んでしまった」
「お知り合いなら仕方ありませんよ。それで話というのは何でしょうか?」
「……実はな、渡したいものがあって。これだ」

桂が名前に向かって跪く。名前は訳がわからずクエスチョンマークを頭に浮かべる。しかし銀時は気付いてしまった。

「結婚してくださギャアアア!!」
「問題しかねェじゃねーかァァァ!!!」

今度は銀時の飛び蹴りが桂の脇腹にめり込んだ。地面に倒れたままの桂を引きずって再び木陰に隠れた2人。名前はボロボロの桂を見ても、2人が親友である故の暴力だと謎の納得をした。

「責任取るってそれか!?1番取っちゃいけねー責任じゃねーか!!」

これもう収集つかねーじゃねーか!!と銀時が頭を抱えてしゃがみ込んだその時。爆発物が2人の元へ直撃した。銀時は偶然しゃがんだおかげで直撃は避けられ、爆風に咳き込む。桂の方もなんとか避けたようだ。
砂煙が晴れると銀時の前には茶髪の青年がロケットランチャーを担いで立ちはだかった。

「桂ァァァ!!」
「沖田隊長!!」

沖田の背後には真選組が構えている。銀時は何がなんだかわからずに呆然として座り込んでいる。反対に桂は立ち上がり、高笑いをし始める。

「ふんっ、奴らめ。こちらの作戦に気付いておったか!そう、この婚約指輪の中には盗聴器が仕掛けられている!!名前殿をスパイに仕立て上げる作戦は失敗に終わってしまったがな!!」

桂が持っていた婚約指輪が機械的な赤で点滅し始める。さらに桂の背後には待機していた攘夷志士らが真選組に刀を向ける。真選組と攘夷志士が向き合う形になった。
一方名前はと言うと、桂の言葉にショックを受けた訳でもなく、他の隊員と同じように刀を構えて銀時らの前に立った。

「それはお互い様です。ハニートラップであなたを捕らえる作戦が失敗に終わってしまい、非常に残念です!」
「いやァ、なかなか上出来でさァ。あとはとっ捕まえるだけでィ」

ニヤリと沖田が笑うと同時に、両勢力がぶつかり合う。
未だに状況を理解できてない銀時だけがこの場に取り残された。

「──まず相手の事をよく知る事から始めろ」
「── 相手の情報……それなら大丈夫です。よぉ〜く知っていますから」
「──おめーは名前がどんな奴か知ってんのか!?」
「──無論。真選組監察見習い兼給仕係」

金属がぶつかり合う音を聴きながら銀時は思い出した。互いに探りあっていたのだろう。

「そーいう事かよ。ったく、パフェ2つ食っといて良かった」

ようやく状況が理解できた時、通りで互いの情報に詳しい訳だと銀時は盛大にため息をついた。空を見上げるとエリザベス型の凧で逃亡する桂、地上ではそれに向かって吠える名前の姿。
全く厄介な事に巻き込まれたな、そう言って2人のやり取りを肘をついて見つめる。

「釣り合う訳ないですよね。そんなことは重々承知です。それでも……」
「ははは!!!名前殿!また会おう!!」
「いつか射止めてみせます!覚悟してください!!」

ニヤリと名前が笑う。空からは桂の高笑いが響き、次の瞬間にはロケットランチャーが炸裂する爆音が銀時の鼓膜を揺らした。