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プロローグ

「うんぎょう髪の毛結んでー」
「うんぎょー今日のご飯何?」
「うんぎょう、どっちの服が似合う?」

名前は何かと云業のお世話になる。名前の寝起きでボサボサの髪を整えるのも、彼女のおやつを管理するのも、はたまた今日のファッションチェックも彼が担当している。……というのは阿伏兎が不在の場合のみである。実際はほぼ毎日阿伏兎がお世話をしている。
云業は言われたまま名前の髪を整える。両サイドを綺麗に三つ編みにし、後ろを鈴の付いたリボンで留めるヘアースタイルは云業のお得意だった。巨漢の割に手先が器用である。

「そろそろ自分で出来る様にならねぇと、オレか副団長のどっちかがおっ死んだ時に困るぞ」
「2人が死ななければいい話じゃん。手足失う程度なら私がお手入れしてあげるからさ」

一見ただのわがままお嬢様に見えるが、名前は第七師団員の義手義足を管理するのが仕事である。腕はたしかなものであるが、それさえ無ければ宇宙空間に放り出されるレベルの怠けっぷりを発揮している。とは言え阿伏兎とは違い、云業は名前のお世話を楽しそうにしている。なんだかんだで名前のリクエストのお菓子を作っては餌付けをしている。今日のおやつはショートケーキのようで、苺を名前がつつく。

「んでさ、阿伏兎どこ行っちゃったの?」
「副団長なら団長と一緒に会議だ。もうじき帰ってくるはずだが……」
「ふーん、また任務でどっか行くのかぁ。まあどーせぇわたしはお留守番だし~」

云業が次にみた時、名前の皿にショートケーキは無くなっていた。その代わり名前のほっぺたに生クリームがくっ付いている。ベタだなと思いつつ云業がそれをタオルで拭き取る。

「ったく地球人に恋しちまってから地球以外の任務はどうでもいいってか」
「それは元からですー。あと地球人じゃなくてサムライですぅー」
「威張るところじゃあねーぞ」

云業が皿を片付けに部屋を出て行った。名前は1度伸びをしてから今日1日の予定をどうするか頬杖をつきながら考え始める。普段通りならこの後は趣味の機械いじりを始めて眠くなったら寝る生活だが、今日は少し違う予定になりそうだった。

「──やめとこうぜ団長、名前の奴卒倒しちまう」
「そうなったらそのまま地球にでも置いていけばいいさ。それとも名前と離れるのが寂しいの?」
「……そういう訳じゃあないんだが。それにあのわがまま娘がいう事を聞くかねぇ」

遠くから阿伏兎と神威の声が聞こえる。待ちわびた阿伏兎の帰還に名前が椅子から飛び降りた。普通名前くらいの年頃の娘になると、お父さん嫌いが発動する時期だが、彼女はその逆だった。ご主人の帰りを待つ犬のように扉の前で2人を待った。

「大丈夫、取っておきの一言がある」
「……何かわからねぇが嫌な予感だけはする」

名前がいる部屋のドアが開いた。来た!と名前が駆け付ける。お帰りなさいという彼女の声よりも先に神威が言った。

「名前、サムライの国に行こうか」

妹に意地悪をする時の兄のように神威が笑った。その言葉に釣られて名前が歓喜の声を上げた。その隣では阿伏兎の大きなため息。