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02 再会

「土方さん!偶然ですね」

「──お仕事ですか?」そう尋ねる名前の左手にはスーパーのレジ袋。中にはネギやニンジンなどの野菜から果物、食材で賑わっていた。
一方尋ねられた側である土方は、いつも通りくわえ煙草で街を巡回中であった。振り向きながら煙草から口を離し、声をかけてきた人物の姿を確認すると一気に煙を吐き出した。

「あぁ。……ちょうど良い、総悟の奴見かけなかったか?あの野郎、またサボりやがって」
「残念ながら。沖田くんの事ですし、すぐ帰ってきますよ。そうだ、土方さんもどうですか?」

どうですか、と名前は2人の少し先にある店を指差す。指された方を追って見ると、甘味処の看板が目に入る。買い物を終えたであろう名前はこの甘味処で一休みしようとしていたところだった。そこに土方がたまたま通りかかったのだ。

「あー、悪ィ。甘いモンはムカつく野郎を思い出すから禁止してんだ」
「そうですか、残念です。今マヨ団子が期間限定で発売されているらしくて、土方さんにどうかなって思っていたのですけど……」
「おいオッサン、2名だ」

マヨというキーワードを聞いた瞬間に、土方は店の中にいる店員に話しかける。その姿を、思った通りという笑顔で見つめる名前。2人は甘味処の暖簾をくぐった。

 名前が持ち帰り用に他の団子をショーケース越しに見定めていると、店前に設置されている縁台で土方は茶を啜っている。マヨ団子は意外に人気のようで──恐らく怖いもの見たさの客が買っていくのだろう──2人の分は今厨房で調理中であった。
マヨ団子を今かと待ちわびて、若干そわそわしている土方の前に、見覚えのある人物たちが通り過ぎようとしていた。

「あ、土方さんじゃないですか」
「なんだァ?甘味を侮辱しにでも来たのか?帰れ!ここはてめーの来ていい場所じゃあねェんだよ、失せろマヨラー!」

メガネの少年が土方に声をかけると、その隣にいた銀髪パーマの青年が眉を顰める。明らかに嫌そうな顔で、土方に突っかかる。またか、と言った表情で右端にいた少女が呆れ顔で2人のやり取りを見守る。

「チッ。テメェらか。残念だが、およびじゃねェのはテメェの方だぞ、万屋」

土方が親指で指した方角には、「マヨ団子好評発売中」と書かれた旗が風に揺られていた。
その姿を見て、顔が青ざめた少年少女3人。「絶対不味い」という意識を共有し、顔を見合わせる。

「はん、マヨ団子なんて。オイ店主、この店潰れても知らねーぞ!」
「いいから黙ってどっか行きやがれ」
「うっせー!俺だって甘いもの摂取しに来てんだ。おいネーチャン、いつもの3人前!!」

どうやらこの店は青年の行きつけの店らしく、店員は彼の声を聞いてすぐさま茶と団子の用意に取り掛かった。
土方の天敵とも言える銀髪パーマの青年らは、土方とは反対の縁台に座る。縁台は店へと続く通路を挟んで左右に設置されており、店から見て右側が土方、左側に銀髪パーマが座っている。店の奥では未だに名前が悩みに悩んで団子を見つめている。土方は腕を組みながら振り返り、それを確認するとため息をついた。
よりにもよって会いたくない人間に会うとは、せっかくのマヨ団子が台無しだ。そんな事を考えながら団子が出来上がるのを待った。

となりの縁台に茶と三色団子が置かれるのを横目で見る。三色団子はマヨ団子とは違い、まだまだ沢山ショーケースに並べられているのを入店時に確認していた。だが、早く店に入った側の土方としては、イライラが募るばかりだった。懐から煙草を一本取り出し、気持ちを落ち着かせようとした。
しかし、ふと耳に入ってきた話が気になり、隣の会話に耳を傾ける。

「んでよ、話の続きだ。この銀さんにも心に決めた女がいたんだよ」
「どうせ結野アナでしょ」
「違ェぞこのメガネ童貞!銀さんにもあんの!甘酸っぱ~~い恋物語が!」
「恋なんて所詮幻想アル。銀ちゃんの勘違いネ」
「うっせーぞクソガキども!……あれはずっと昔、まだ毛の生えてないガキだった頃の話だ」

普段人の色恋に興味はない土方だったが、何故かこの話には興味を持ったようで煙草片手に気付かれないように耳を澄ませた。

「俺は1人の女、いや少女と出会った。そしてなんやかんやあって、2人は恋に落ちた」
「いやそこを話すんじゃねーのかよ!?1番大事なところすっ飛ばしてどうすんだ!」

期待したのがバカだったと言わんばかりに立ち上がって突っ込むメガネ少年。その気持ちは土方も同じであった。

「ハイ!じゃあなんで、その女と銀ちゃんは今一緒にいないアルか?やっぱり幻想だったか?」
「……死んじまったんだよ」
「ぎ、銀さん……。それってもしかして……」
「そ、攘夷戦争でな。まだケツが青かった俺たちは、また会える、そう信じてそいつとは戦地で別れたんだ。それっきり。墓すらどこにあるのかもわからねェ」

沈黙。事情を察して、先程までツッコミに白熱していた少年は静かに着席する。青い大きな目を伏せて、少女も口を閉じた。

「だから、オメーらもやりたい事、言いたいことがあるなら、生きてるうちに暴れとけ。生きていればなんとかなる。多分」
「そこは自信持ちましょうよ」
「名前知りたいアル。そこまで銀ちゃんの心をがっちり掴んだ女の名前」
「知ってどうするってんだよ?」
「墓ぐらいは見つけてやるよ。1回くらいは花手向けないと、女はこういう所でも男をチャックしてるネ」
「チェックね」

一連の話を聞き土方は意外という感情を持ちつつ、いつものように煙草の煙を吐き出した。こいつにもそんな相手がいたのか、そう思いながら彼の頭の中には1人の女性の姿が揺れる。

「……。そうだな、そいつの名前は──」

自嘲気味に渇いた笑いを浮かべ、想い人の名前を久し振りに声を出そうとした。その時、ちょうどマヨ団子を手にした名前が店の奥から姿を現した。

「お待たせしました。出来立てのマヨ団子ですよ」

口を開いた銀髪パーマは、名前の声を聞き息が止まる。目を見開いて、ゆっくりと振り返り通路を確認した。

「おう。随分と悩んでたようだが、何にしたんだ?」
「えっと、胡麻味噌蜂蜜黒糖団子と、激辛唐辛子団子に、みたらしタコ焼き団子、ついでにわさび大根饅頭です!」
「……、そうか。腹壊すなよ」

 名前があげるゲテモノに絶対不味いという確信を持った土方は、安心してマヨ団子に口をつけた。同時にこの店の将来が心配になったが、口に含んだマヨ団子の味にうっとりとした表情を浮かべる。マヨ団子はマヨラーの土方が想像していた以上に美味なもので、売り切れていた事にも納得がいった。マヨネーズが団子の上にかかっているのが、ただのマヨではない事を舌で感じとった彼はマヨ団子の成分分析を始めた。名前は土方の隣に腰掛け、買った品物を眺めながら、お茶に手をつけた。

「……銀さん?どうしたんですか?」
「……名前

土方のとなりに座った名前を見て、勢いよく立ち上がったものの、その後ピクリとも動かなくなった銀髪パーマこと、銀時の顔を不思議そうに覗き込んだ少年。その隣の少女も、首を傾げながら団子を頬張った。
彼がポツリと呟いた言葉に、3人の隣の縁台に座った名前が、彼とは反対にピクリと肩を跳ねあげた。ゆっくりと、声のした方に振り返る名前
 名前と銀時、2人の視線がゆっくりと重なった。

「ぎ、銀時……?」
名前、おまえ、なんで──」

──生きているんだ?そう言いかけて無意識に左手を名前へと伸ばした銀時。しかし、そのすぐ横をなにかが勢いよく通り抜け、地面に接触した直後に爆発した。

「ゲホッ、んだァ!?テロか!?」

砂煙で咳き込み、ついでに周りが見えなくなるが、手探りで隣にいた名前の右手を掴んだ土方。彼女を引き寄せて、安否を確認する。名前も咳き込んではいるが、怪我なく無事なようだ。そのまま、何かが飛んできた方向を睨みつつ、自身の後ろに名前を引っ張った。

「いやァ土方さん、こんなところで会うなんて偶然ですねェ」
「てめっ、総悟!街ん中でバズーカぶっ放す奴がいるか!?」
「隣に見覚えのある赤チャイナが居たんでつい」
「つい、じゃねェよ!!一般人巻き込んでどうすんだ!」

砂煙の中から、童顔の栗色の髪をした少年がバズーカ片手に登場する。爆発した何かとは、彼が放ったバズーカであり、打った本人は何食わぬ顔で2人に近づいてくる。

「何するアルか!?私の三色団子どうしてくれるネ!?」
「沖田さん!!一歩間違えば僕たち死んでましたよ!?」
「そりゃあチャイナ娘の近くにいる新八くんが悪いんですぜィ。俺はチャイナ娘を殺ろうとしただけで」
「テメェいい加減にしろヨ!私になんの恨みがアルか!?」

チャイナ服をきた少女が沖田めがけて飛び膝蹴りを繰り出すが、沖田はそれを簡単に避ける。次は彼が反撃し、そしてそれを少女がさらに反撃し……。2人の喧嘩が始まった。
それをなんとかなだめようと、メガネの少年が奔走するが、喧嘩に巻き込まれてボコボコにされている。
その様子を見て、土方は頭を抱えた。どこかでサボっていた沖田を探す手間は省けたが、また違う手間が、面倒ごとが増えた。

「もう、街中で真選組ともあろう人がバズーカぶっ放しますか普通」

そう言いながら名前は喧嘩中の2人に近付いた。未だにぼうっと突っ立っている銀時は、名前の声にハッと我に帰った。名前の声がした方を見ると、視界には吐いている沖田と少女の姿が目に入った。

「これでも食べて落ち着きなさい!」
「オエエエエエエエエエ!!!」

どうやら名前が無理やり2人の口に団子をねじ込んだようで、2人はあまりの不味さに喧嘩を中断し食べたものを吐き出していた。名前の両手には、薄茶色をしたみたらしタコ焼き団子があった。

「土方さん、今のうちに沖田くんを回収しましょう」
「あ、あぁ。そうだな」
「メガネくんも、チャイナちゃんを回収してね」
「アッ、はい!!!」

 名前は2人の回収指示を出すと、みたらしタコ焼き団子片手に、荷物の安否を確認した。爆発に巻き込まれたが、団子と買い物袋の中身は無事だったようだ。

「さて、と。……偶然だね、銀時」

ひと段落つかせた名前がゆっくりと振り返る。
銀時の記憶の中にある名前と、今目の前に名前の姿が重なって見える。この女性は名前である。そう銀時は確信した。

「……偶然ってお前、俺がどんだけ心配したか、いやそもそも生きてるのが不思議っていうか、あの後どうしたのかってあー!もうわけわからグウェ!」
「落ち着いて?」

頭をかいて、混乱気味の銀時の口に、名前がみたらしタコ焼き団子を放り込んだ。例に漏れず、銀時も顔を青くして食べたものを吐き出す。

「オエエエエエエエエエ!!!!まっず!!!何これこの世の終わり!?落ち着けるわけねーだろ!!」
「じゃあわさび大根饅頭でも……」
「いらねーよ!……ったく、どうやら亡霊でも、俺の幻想でもないようだな。名前

──心に決めた女がいたんだよ。
銀時が話していた「心に決めた女」。てっきり攘夷戦争で死んだと思っていた女。銀時の記憶の中で笑う昔の姿の名前
あの時掴めなかった手を、今度こそ掴んで離さない。